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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3327号 判決 1992年8月25日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、金三〇六四万五六〇〇円及びこれに対する平成三年五月一六日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、不動産賃貸業等を営業目的とする株式会社第一住建の代表者であるが、昭和六二年八月一〇日から、被告会社千里中央支店と証券取引を始めた。

2  原告は、次のとおり買付注文をした。

買付日 銘柄 株数 単価 信用現物

平成2年8月30日 日本軽金属 20000株 1370円 信用

同上 本州製紙 5000株 4860円 信用

平成2年9月6日 日本軽金属 30000株 1300円 信用

3  平成三年二月二八日、原告は被告に対し、次の買建株の品受(現物取引への変更)を指示したが、その代金(手数料・金利とも)合計金七七九〇万三一六六円をその決済期限であった平成三年三月五日に支払わなかった。

買付日 銘柄 株数

平成2年8月30日 日本軽金属 10000株

平成2年8月30日 本州製紙 5000株

平成2年9月6日 日本軽金属 30000株

そこで被告は、東京証券取引所受託契約準則一三条の九に基づき、平成三年三月一九日、原告の株式を次のとおり売却した。

銘柄 株数 単価 合計額

本州製紙 5000株 1540円 7,531,508円

日本軽金属 40000株 973円 38,176,162円

二  争点(原告の主張)

原告は、前記争いのない事実2記載の各買付日に、被告との間に損失保証契約が成立していると主張する。

しかして原告は、日本軽金属、本州製紙の株価が下落したことにより被った損害として、日本軽金属五万株の損が金一四〇四万五六〇〇円(日本軽金属の一万株は未売却であるが、被告において売却を言明しているので単価九七三円の売買代金で原告の損を確定させることができるというべきである)、本州製紙の損が金一六六〇円と確定した(買付日平成二年八月三〇日の日本軽金属の単価が金一三〇〇・七三円《一三七〇円ではなく》、二万株、買付日同年九月六日の日本軽金属の単価が金一二二二・七〇円《一三〇〇円ではなく》、三万株、買付日平成二年八月三〇日の本州製紙の単価が四八六〇円、五〇〇〇株であり、平成三年三月一九日の被告による売却額が日本軽金属につき単価が九七三円、五万株、本州製紙につき単価が一五四〇円、五〇〇〇株であるから、

(1,300.73円×20,000)+(1,222.70円×30,000)-(973円×50,000)=14,045.600円

(4,860円×5,000)-(1,540円×5,000)=16,600,000円

として算出)ので、被告に対し、損失保証債務の履行として、右合計金三〇六四万五六〇〇円及びこれに対する遅滞後である訴状送達の日の翌日(平成三年五月一六日)から支払い済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三  争点に対する判断

原告は、平成二年八月三〇日、同年九月六日の日本軽金属、本州製紙の本件株取引の際に、被告会社千里中央支店の森勉支店長との間で、口頭による損失保証契約が成立していると主張し、原告本人の供述は右主張に沿う部分がある。

しかしまず、本件各株取引の際に原告主張のような損失保証契約が成立していることの裏付けとなるものは一切存しない。

原告提出の検甲第一号証(平成二年一〇月二日の第一住建の社長室での原告と森支店長との会話の録音テープ)、甲一、七号証(いずれも検甲一号証の反訳)には、原告が森支店長に対し、森が損失保証の約束をした趣旨のことを執ように繰り返して原告の言い分を述べ、これに対し森支店長が「しますよ」とか、「はい」「うん」などの肯定的発言はあるものの、かかる森支店長の片言隻句をもって損失保証契約の裏付けとなしうるものではない。

原告主張に沿う原告本人の供述は、乙第五号証、証人森勉の証言に照らしてとうてい信用できず、損失保証契約の存在を裏付ける証拠はなんら存しない。

原告の「証券業界の体質として被告会社が営業成績を挙げ、手数料稼ぎをするために損失保証をしたもの」との主張は、原告独自の意見をいうものという外はないし、他の証券会社が原告に対し損失保証をした事実がある(甲三、四1、2)としても、かかる事実が原告主張の損失保証契約の存在の傍証となるものでもない。

二 原告の本訴請求は、その余について判断するまでもなく理由がなく、これを棄却すべきである。

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